錆びついたレモン。
2020年 12月 14日
菜園の北の隅に檸檬を植えて、どれほど経っただろう。
ホームセンターで売れ残って、3割引のひょっとした苗木だったが、今は三メートルほどの高さまで届きそうだ。
この地の夏の暑さは全国屈指ということはさておき、冬も内陸性の気候で寒さと乾燥が酷い、赤城颪も加わってレモンの生育には適していないだろう。
苗を植えた当初は、秋に入ると幾つかの実をつけいるものの、枝先の葉がかじかんで、枯れてゆくのかと思わされた。
しかし、その何年かが過ぎると、意外にも、生命力の強さを現してきた。
今年は、花はたくさん咲いたのだが、ほとんどが落ちた。
いまは、十が、二回数えられる程度の実をつけている。
今朝、一つ、とってきた。
牡蠣フライにちょっと、絞りたいのだ。
小生の畠で採れるレモンは、梶井の「檸檬」のようなレモンではない。
スーパーマーケットで売られている、つるっと明るいレモンにも似ていない。
多分、ダニの害か、表皮が汚れたように、黒い点に覆われている。
錆びついたレモン。
錆びているといっても、目をつぶって囓ればいいのだ。
わたしの手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした(智恵子抄・レモン哀歌の一節)
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした(智恵子抄・レモン哀歌の一節)
と、光太郎さんが記したあのレモンに、そうは劣るものでもないだろうと、思うのだ。
錆びたレモンを、小生は大いに贔屓するのだ。
いやいや、智恵子さんが真っ白な歯できりりと噛むのと、老いぼれの「がりり」は、大違い、そこのところは如何ともしがたいと、認めよう。
by ribondou55
| 2020-12-14 22:48
| 生きている
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