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ビスケット工場の木陰で

 
 この季節になると
  時刻表を買う
  夏の臨時電車が掲載されているポケット版
  一昨日、
  駅の書店で今年も買った。

  大学2年の夏。
  小さなビスケット工場で
  時給230円のバイトをした。
  昼休みには
  おばさんたちと
  よく冷えた
  牛乳を飲んで、
  二段重ねの赤い弁当箱の弁当を食った
  それが、180円。

  弁当を食い終わると
  扇風機もない工場の木陰に座って時刻表を読んだ。
  時刻表は事務所のゴミの中から拾った。
  出来損ないのビスケットを食べながら。 
  時刻表を読んでは、鉛筆でマークした。
  読んでも読んでも
  鉄道はどこまでも連結し突き進むことを止めなかった。

  一週間働くとビスケット工場の
  甘いミルク色の香料が
  ジーンズや髪の毛にしみんで匂った。
  帰り道のバスは
  必ず最後尾に座った。
  
  送り盆がすんだころ、
  家庭教師のバイト料も入ったことで、 
  三陸への周遊券を買い、
  津軽から三陸への旅に出た。

  「僕の旅」の始まり。

  その旅の最終地、
  田老の海岸の高い防波堤に
  夕涼みに出ると
  二十メートルほど先の
  ひょろっとした外灯の光が闇に融けこむあたりに
  縁台をおいて
  「女」が座っているらしい。

  紅いワンピース
  緩やかに
  むき出しの腕
  かすかに光をおびた胸元
  涼しげに・・。
  それに、
  闇より暗い髪。
  
  僕はゆっくりと歩いて
  その女の人の前を通り過ぎた
  胸がわくわくとゆらいだ
  
  「こんばんは」

  「アッ、コンバンワ」

  僕は通り過ぎた。
 
 
  旅の終わり
  なぜか盛岡駅で
  津軽の絵はがきを買った
  ビスケット工場にいた女の子にあげたいと思った。
  女の子は女の子のグループから離れた木陰で
  いつも昼休みには文庫を読んでいた。 
  文庫の表紙に見覚えがあって、・・・・。


  旅から帰って幾日かごろごろと日を過ごして
  ようやく
  8月の終わりビスケット工場によった。
  女の子はとっくにアルバイトを止めていた。
  

  それから何度か東京へ行く駅の朝のホームで
  すれ違ったり
  遠くから見かけたりしたが
  絵はがきは予定どうり渡さずじまいで終わった。

  時折ビスケットを食べると
  その軽く足を傾けた彼女の後ろ姿を思い出す若いころのひとときあったが、
  今はとんとそんなことも無く
  だいたい、ビスケットを食べることさえそうはないのだし。

  だが、時刻表を買う習慣だけは残ってしまった。
  七月になると時刻表が
  ひとときの
  愛読書となる。
    


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by ribondou55 | 2005-06-25 00:14 | よしなしごとあれこれ | Trackback | Comments(0)

花より団子、団子より昼寝がよろしい「隠居蛙」の日常をポロリ。誤字誤記多し、恐縮。


by 泡六堂
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