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『小さいおうち』を観て。

 例えば、山田洋次監督の『小さいおうち』について、おもしろくなかったとは、云えない。

 そう云うと奥歯に物が挟まったような感じがあるが、見終わって、しばらくすると、どことなく中途半端な気分になる。

 これは、『かぐや姫の物語』を見終わった時の後味に似ていた。

 この二作品は、とても完成度の高いものであるし、何より「良心的」な作品だ。

 細部まで目が行き届きすぎるほど行き届いている。

 でも、ピンと来ないところがある、それはボクの側の問題だと、云われてしまえば仕方がない。

 
 『小さいおうち』では、監督は三つの物語を共鳴させている。

 一つは、女中(倍賞智恵子)の罪の意識の物語。

 一つは、山の手中産階級の奥様(松たか子)の恋の物語。

 一つは、その「赤い三角屋根の小さい家」が、「戦時」に包囲され、翻弄され、ついに焼夷弾を浴びて燃え落ちてしまうまでの物語。

 それはそれは手慣れた感じでうまく絡み合い、この「おうち」に起きた悲劇のありようは、当時の市民的生活を営むことができた階層の典型であるように思える。

 そして、その悲劇を、今まさしく当面している日本の状況への批評、あるは、警告として容易に観ることが、勿論出来る。

 戦争へのきざしは、暢気でほがらかな笑いの奧に潜んでいるものなのだ。


 ボクは、この映画を市原悦子の「家政婦は見た」の女中さんバージョンかと突っ込みを入れたくなった。だが、それは見当違いだった。ボクは、市原悦子さんに親しみを感じる分、倍賞さんから遠くなった。

 と同時に、先頃放映されたNHK総合の『足尾から来た女』のことも思い出していた。

 そして、ふと思ったのは、この映画にどことなく白々しさをボクに感じさせているのは、この女中の素朴な善良さに発しているらしいと。

 大正生まれ、尋常小学校を満足に卒業することなく子守奉公から始まって、しばらくして女中奉公にうつり、敗戦後ようやく所帯がもてて、貧乏暮らしながら、親の前借りを返すだけの奉公から脱出できたという女性の話を聞いたことがある。

 この映画でも、吉原に売られる云々の時代説明の一言があったが、まことにその通りで児童労働も人身売買まがいの「奉公」勤めも、ついこの間まで珍しくなかったのがこの国であって、そんなかつてのお国柄を懐かしむお方も昨今多いので、ボクはあきれている。

 そうしたリアルから見ると、布宮タキさんは嫁入り修行のような労働意識と優しい時子に仕えるという好条件のもとに働いていたのだから、どんなにか恵まれていたのだろう。時子の家に一生仕え、骨を埋める覚悟を抱いたとしても、ありうることかも思う。

 であれば、仕える奧さんにとってよかれと信じたことが、もしかすると、取り返しのつかない裏切りであったかも知れないという罪の意識を終生抱いていたというお話は、信じてよいかも知れない。

 ボクは、布宮タキさんの純朴と誠意を美しいと思う。だが、その美点に対し無条件で感動できない。
  
 これは、ちょっと、微妙だが、当時の女中さんたちを馬鹿にした話しにはならないか。

 足尾から来た女中さんにこそボクは共感できる。

 何が言いたいかというと、布宮タキさんは例外的な人だ。

 確かに、ボクは辛酸をなめつくし、世間の底の底で生きてきながら、みごとな生きてきたひとを知っている。そんなひとは、例外的なひとだ。

 尋常小学校は4年制であった。6歳で入学、卒業時の3月で10歳。その年齢で親元から離れて「奉公」に出た。このこと一つだけから考えても辛くなる。

 それなら、「おしん」ならいいのかと云われると、それも、ちょっと困る。

 タキさんを描いても立派な作品だ。


 ただ、おしんもタキも物語ならではの人物である。

 「物語」にふさわしい人物?

 「物語」にはなれない人々。

 物語になれない人々に、最近の映画や小説は繋がることができているのだろうか?

 だが、このところの映画でも小説でも、おおむね、ほどほどに・・・、そんな感じに流れてはいまいか。そんな風に思えるのだ。


 だがね、とにもかくにも、『小さいおうちは』は、後世、名作と評されることは疑いない。

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by ribondou55 | 2014-01-30 18:17 | 還暦シネマ | Trackback | Comments(0)

花より団子、団子より昼寝がよろしい「隠居蛙」の日常をポロリ。誤字誤記多し、恐縮。


by 泡六堂
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